AI事業の広告予算を組もうとして相場を調べたものの、参考になる数字が見つからなかったというケースは多いのではないでしょうか。見つからないことには理由があります。一般社団法人日本AI導入支援協会の調査(2026年7月)によると、AIを本業とする上場27社のうち、会社単位で広告宣伝費の金額を確認できたのはわずか6社。残る21社では、広告宣伝費が有価証券報告書の主要費目として挙がってきません。
この偏りこそが、AIビジネスのマーケティングの実態をよく説明しています。結論を先に述べると、広告費の相場は「AI企業」という括りでは決まりません。金額を確認できた6社の売上比は2%から16%まで開き、その内訳はエンタープライズからプロダクトを立ち上げる型(2%から4%)と、SaaSの需要創出型(6%から16%)にはっきり分かれます。そして残る21社の主戦場は、パートナー網、自社イベント、導入事例という広告の外にあります。予算を組むときに参照すべきは業界の平均ではなく、自社と同じ型の会社です。
AIを活用したBtoBマーケティングの戦略設計から実行までを担当。検索流入を軸にした集客と、AIXの現場知見をもとに記事を監修しています。
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AIが本業の上場27社、広告宣伝費の金額を確認できたのは6社
27社の有価証券報告書をはじめとする一次資料を確認したところ、会社単位の広告宣伝費を特定できたのは6社で、合計は20.0億円でした。ここで注意が要るのは、これが各社の会社全体の広告宣伝費だという点です。広告費は事業別に開示されないため、AI事業単独の広告費を示すものではありません。また、金額を確認できなかった21社を0円と見なしているわけでもありません。

それでも、21社で広告宣伝費が費目に挙がらないという事実には意味があります。有価証券報告書の販管費注記に記載されるのは主要な費目だけです。つまり21社にとって広告は、経営上の主要な支出ではない水準にとどまっています。顔ぶれを見ると、エクサウィザーズ、ABEJA、Laboro.AI、JDSC、Ridge-iといった大手企業向けの受託・導入支援や、AI insideのようなパートナー販売中心の会社が並びます。AI研修の価格戦略4類型から見る後発の差別化で確認した「価格を公開しない会社」と大きく重なる顔ぶれです。稟議とコンペで受注が決まる商売では、価格表も広告も主役にならない。同じ構造の両面です。
開示6社の売上比は2%から16%、型は2つに分かれる
金額を確認できた6社を並べると、水準は一様ではなく、事業の型で2つのグループに分かれます。

低い側にいるのがエンタープライズ立ち上げ型です。PKSHA Technologyは2025年9月期で4.7億円、売上比2.2%。同社の広告宣伝費が有報に登場したのは2023年9月期からで、以降2.4億円、3.0億円、4.7億円と倍増を続けています。HEROZも2025年4月期に2.4億円、売上比4.1%で、前期の1.2億円から倍増しました。大手企業向けの事業で成長してきた会社が、ソフトウェアプロダクトの販売拡大に合わせて広告を費目として立ち上げてくる局面で、水準は低くても伸び率は最も高いグループです。
高い側はSaaS・需要創出型です。翻訳SaaSのメタリアルが5.7%、接客解析AIのSapeetが7.3%、リーガルAIのGVA TECHが14.0%、そしてウェブ完結で契約まで進む商材を持つユーザーローカルが16.3%。ユーザーローカルはタクシーやエレベーターのサイネージにChatAIの導入事例を展開するなど、広告を獲得の主導線に置いています。買い手が自分で見つけて自分で試す、セルフサーブに近い商材ほど比率が上がるという規則性は、この6社の並びに素直に表れています。
比較可能な6社のうち5社が広告宣伝費を増やした
前期と比較できる6社のうち、会社広告宣伝費を増やしたのは5社です。標本は小さいものの方向は明確で、減らしたのはGVA TECH1社だけでした。特に目を引くのがエンタープライズ立ち上げ型の伸びで、PKSHAが前期比57%増、HEROZが112%増と、そろって大幅な積み増しに動いています。これまで広告を使ってこなかったエンタープライズ系のAI企業が、プロダクト販売の拡大とともに広告市場へ入り始めた局面であり、この領域の獲得競争は今後高くなっていくと見られます。
21社の主戦場は広告の外にある
では、広告宣伝費が費目に挙がらない会社は、何で顧客を獲得しているのか。調査では一次資料で確認できた個別施策を収集しており、そこから主戦場が見えてきます。
第一にパートナー・販売網です。AI insideは契約の90%をパートナー経由と説明しており、業務AIでは販売・導入網が市場到達の中核になり得ます。AVILENにも販売網や提携の動きがあり、広告でリードを集める代わりに、顧客接点を持つ組織と組む設計です。
第二に自社イベントと展示会です。PKSHA AI Summit 2025には452人が参加し、会社アンケートでは約90%がAIエージェントの重要性を認識したとされています。エクサウィザーズはウェビナーと自社イベントを重ね、SapeetやAVILENは展示会でのデモを続けています。稟議で決まる商売では、広告のクリックより、意思決定者が半日を投じるイベントのほうが受注に近い接点になります。
いずれも「広告宣伝費」の外側で認知と信頼を積む施策です。費目に表れないだけで、マーケティング投資が小さいわけではありません。
検索チャネルそのものも変わり始めている
もうひとつ、予算配分の前提を揺らす変化があります。GVA TECHはGoogleのAI Overviewが検索流入へ与える影響を公表し、専門家提携などへ獲得チャネルを多様化していると説明しました。検索広告とSEOで組み立ててきたSaaS型の獲得導線は、検索結果そのものがAIの回答に置き換わる流れの中で再設計を迫られています。広告費の水準を考えるとき、これからは「どの面に出すか」だけでなく「AIの回答にどう載るか」まで含めて設計する必要があります。
マーケ予算は「AI企業の平均」ではなく型で決める

ここまでのデータを自社の予算設計に引き付けると、参照の仕方は明快です。受託・導入支援型でいくなら、広告費の相場を探すこと自体が出発点の誤りです。27社中21社は広告が費目に挙がらない水準でしか使っておらず、投資はパートナー網、自社イベント、導入事例、すなわち稟議で効く接点に置かれています。AI研修の価格はどう決める?主要15社の価格戦略4類型から見る後発の差別化で述べた、業界特化で指名を取る設計と向かう先は同じです。
プロダクト型でいくなら、参照点は同じ型の実測値です。エンタープライズからの立ち上げ期で売上比2%から4%(ただし前年比は倍増ペース)、SaaSの需要創出型で6%から16%。セルフサーブに寄るほど高くなります。参考までに、AIに限らない横断SaaS大手の水準(当社集計)では、freeeが売上比12.6%、Sansanが11.8%、マネーフォワードが13.8%と1割強で並んでおり、全国区の認知を取りにいく段階の到達点を示しています。
合同会社efuは、AIサービス・AI研修を提供する企業に向けて、この視点でのマーケティング設計(商材の型に合わせた予算配分、検索とAIチャットの回答面の獲得、価格・実績の見せ方)を支援しています。自社のマーケ予算や露出設計を検討したい方は、お問い合わせよりご相談ください。
根拠データ: 広告宣伝費を確認できた6社(2026年7月調査)
本記事のデータは、一般社団法人日本AI導入支援協会が2026年7月18日時点で実施した上場AI関連60社の調査によるものです(調査: 日本AI導入支援協会、分析: 合同会社efu。当社代表は同協会の代表理事を務めています)。本記事ではこのうちAIを中核事業とする27社を対象とし、既存の事業領域で強みを持つ会社にAIを組み込んだ企業(不動産、保険、法律ポータル、セキュリティ等)や複合企業は対象から除いています。広告宣伝費はいずれも有価証券報告書等の一次資料(EDINET)で確認した会社全体の金額であり、AI事業単独の広告費ではありません。
| 会社 | 型 | 主な事業 | 広告宣伝費 | 売上比 | 決算期 |
|---|---|---|---|---|---|
| ユーザーローカル | SaaS・需要創出 | 生成AI・分析SaaS | 7.5億円 | 16.3% | 2025年6月期 |
| PKSHA Technology | エンタープライズ立ち上げ | 生成AI・コンタクトセンターAI | 4.7億円 | 2.2% | 2025年9月期 |
| メタリアル | SaaS・需要創出 | AI翻訳SaaS | 2.6億円 | 5.7% | 2026年2月期 |
| HEROZ | エンタープライズ立ち上げ | 生成AI・業務AI | 2.4億円 | 4.1% | 2025年4月期 |
| GVA TECH | SaaS・需要創出 | 法務・コンプライアンスAI | 2.1億円 | 14.0% | 2025年12月期 |
| Sapeet | SaaS・需要創出 | 営業・接客・ウェルネスAI | 0.7億円 | 7.3% | 2025年9月期 |
売上比は会社全体の広告宣伝費を同期の売上高で割った値です。6社の中央値は金額で2.5億円、売上比で6.5%でした。金額を確認できなかった21社には、エクサウィザーズ、AI inside、ABEJA、ヘッドウォータース、ニューラルグループ、Laboro.AI、JDSC、Ridge-i、アドバンスト・メディアなどが含まれます。
出典一覧(2026年7月18日時点)
- 一般社団法人日本AI導入支援協会「AI関連上場60社 マーケティング戦略調査」(2026年7月)。広告宣伝費は各社有価証券報告書等の一次資料(EDINET)で確認
- ユーザーローカル プレスリリース(ChatAI導入事例のサイネージ展開) https://www.userlocal.jp/press/20260601mm/
- GVA TECH 公式note(AI Overviewの影響とチャネル多様化) https://note.com/gvatech/n/n0913e716f416
- AI inside 公式サイト(契約の90%がパートナー経由) https://inside.ai/about/sustainability/
- PKSHA Technology ニュースリリース(PKSHA AI Summit 2025) https://www.pkshatech.com/news/20250828/
- 参考: freee、Sansan、マネーフォワードの広告宣伝費は各社有価証券報告書(EDINETのXBRLデータ)から当社集計

